0〜500MHz「スペアナもどき」の製作

 ここでご紹介する「スペアナ(スペクトラム・アナライザ)もどき」は、比較的簡単な工作でスペクトラム・アナライザの最小限の機能を実現することをめざしたものです。このため、例えば500MHz〜1GHzを掃引する第1局発回路及び590MHzの第2局発回路にUHF-TVチューナーの局発を流用したり、第3IF増幅段をLOGアンプ内蔵の狭帯域FM受信回路用IC1チップで済ませるなどの工夫を行っています。性能面ではまだ十分なものとはいえませんが、読者の皆さんの実験の参考になれば幸いです。

 回路と製作の概要

 (1) 回路構成
 本器では、測定対象となる0〜500MHzの信号をまず500〜1000MHz可変の第1局部発振器(以下LO)と混合して500MHzの第1中間周波数(以下IF)に変換し、次に590.1MHzの第2LOと混合して90.1MHzの第2IFに変換、さらに、100.8MHzの第3LOと混合して10.7MHzの第3IFに変換した上で、LOGアンプへと導いています。
 LOGアンプでは、その名の通り、入力された信号レベルを対数圧縮して、オシロスコープ(XYモード)のY軸に与えます。従来はLOGアンプとしてTVの映像IF用フォワードAGCトランジスタである2SC1855がよく使われてきましたが、現在では移動体無線機等のFM-IF用ICでLOGアンプを内蔵したものが開発され、アマチュア用のFMトランシーバでもこれらのICを使ってバンドスコープ機能を内蔵させたものが流行しています。われわれもこれらを利用しない手はないといえます。

 (2) 製作方法
 製作の進め方ですが、いちばん手っとり早く、かつ高周波的にも一定の合理性があると考えられる「ベタ・アース法」を基本に、比較的低い周波数等では必要に応じて小さく切ったFCZ基板上に最小単位の回路を組み立ててからベタ・アース上に貼りつけるといった方法で組み立てています。
 最小単位となる回路が2つか3つ集まって1つのユニットが構成されますので、これを5×10cmの両面生基板のサブボード上に実装し、次にこれらのサブボードを14×20cmほどの片面生基板のマザーボード2枚に貼り付けています。
 シールドはサブボードごとに、秋葉原の秋月電子で見つけた旧型BSチューナ用のシールドケースを利用して行っています。また、ユニット間の高周波信号の接続には1.5D-QEVと、最近よく見かける1.5D(C)用のミニチュア・ピンコネクタを使用しました。このコネクタは、秋葉原ラジオデパート1階のジャパンフラッグで購入しました。
 最初に電源や掃引信号発生器などのDC〜低周波回路を組み立て、次に高周波回路については第3IFのLOGアンプから、信号経路と逆の順序で作っていくのがよいと思います。なぜならば、その前段のBPF等の調整にLOGアンプが高性能な測定器として活用できるからです。
 なお、本機は、簡易型とはいえ、一応1GHzまでの信号を取り扱うことになりますので、製作には、最低限この記事や回路図を読んで理解できるというぐらいの知識と、スーパーヘテロダイン型受信機ぐらいの自作経験と、そして一定の工具・測定器等が必要になることをあらかじめおことわりしておきます(といいながらも、実は筆者自身も文系ハムですし、たいして自作経験豊富というわけではありませんのでご安心下さい。最小限必要な測定器は、テスタ、周波数カウンタ、XY動作可能なオシロスコープ、0dBm=1mWぐらいまで測れる小電力計、ステップ・アッテネータ、各IFと同一周波数で出力レベル0dBm程度の信号源といったところです)。

 各ユニットの回路と製作

 (1) 電源ユニット
 本機のメインの電源ユニットに含まれる電源は、12V、正負15V、30Vの3系統です。12V電源の容量は、付加回路の組み込みなども考えると1A程度見ておいたほうがよいでしょう(あとになってトランスを大きいものに取り替えるというのは実に悲惨です)。正負15V電源は掃引信号発生回路等のオペアンプに供給するもので、本機では12V系とは別のトランスをもう一つ設けています。30V電源は、第1LOのチューニング電圧源として1か所で使うだけなので、大がかりなものは必要ありません。本機では秋葉原の鈴商で売られている5V→30VのDC-DCコンバータのツェナーダイオードに5.1Vのツェナーダイオードでゲタを履かせて35Vとし、3端子レギュレータで30Vに安定化して供給してます。
 その他、回路図にいちいち示していませんが、5Vや9Vの電源が必要な場合には、それぞれのユニット上で12Vから3端子レギュレータで落として供給しています。

 (2) 掃引信号発生ユニット
 オペアンプを使った鋸波発生回路と、その後に続くいくつかの付属回路から成り立っています。付属回路としては、まずオシロスコープのX軸掃引信号として常時±5Vの鋸波を出力する回路、そして第1LOの制御電圧を出力する回路に大別されますが、後者はさらに掃引幅を横軸1divあたり0〜50MHzの範囲で設定する回路、掃引の中心もしくは開始周波数を設定する回路、第1LOに用いているVCOの周波数直線性を補正するための折れ線回路、そしてその出力を最終的に0〜30V弱まで電圧ブーストする回路から構成されています。
 なお、掃引速度について筆者は欲張って5ms〜0.1s/divの5段階切り替えとしてみましたが(オシロスコープの一般的なステップに合わせてあります)、通常のブラウン管式オシロスコープで見る場合は、あまり遅い掃引速度は利用価値がなく、5msと10msの2段階ぐらいで十分だったようです。また、掃引速度を決めるコンデンサの切り替えを筆者はミニチュアリレーで行っていますが、これは手持ちが大量にあったからで、配線が長くならなければ、スイッチで直に切り換えてもよいと思います。

 (3) 第3IF-LOGアンプユニット
 数年前に移動体無線用に開発されたLOGアンプ内蔵型のFM受信回路用ICであるNJM2232Aを使っています(最新版は見ていませんが、91年版の高周波デバイス規格表355頁に掲載されています)。このICには混合回路やLO回路、FM復調回路等も含まれていますが、今回はLOGアンプの部分だけを利用しています。このLOGアンプ回路は本来は455kHzのIFで使うように設計されているようですが、10.7MHzでも何とか使えます(455kHzと比較してLOG特性の精度が若干低下するとともに、対数変換後の信号レベル出力電圧も全体として相当程度低下しますが、やむを得ないところでしょう)。調整個所は、基本的には段間のIFT1個所のみですから、2SC1855によるLOGアンプのバイアス調整等でさんざん苦労した筆者としては、涙が出るほど感動しました。このICは秋葉原の亜土パーツショップでデータシート付きで購入しました。
 なお、このICはハーフピッチのフラットパッケージなので、サンハヤトから出ているピッチ変換基板の上にマウントしています。
 このユニットのあとに、簡単なビデオ・フィルタと増幅回路を挿入し、オシロスコープへと導いています。フィルタは、低域側にVRを回すとランダムノイズが平均化されて画面がすっきりしますので、特にノイズフロアすれすれの信号の観測が大変楽になります。ビデオ増幅回路(というほどのものではありませんが)では管面の1divあたりの信号の変化量がちょうど10dBとなるようにLOGアンプの出力を増幅した上で、基準となるレベルが管面の上辺にくるように合わせています。

 (4) 第3混合・BPFユニット
 ここでは、混合には秋葉原の秋月電子で取り扱っているミニサーキット社のTUF-2というDBMモジュールを使っています。
 BPFについては、普通のスペアナでは多数のフィルターを用いて分解能を変えられるようになっていますが、自作の場合、これはなかなか容易ではありません。筆者も実験してみましたが、われわれが一般的に入手し得る狭帯域FM用やSSB・CW用の水晶フィルタを使うと、選択度が急峻すぎるために波形にリンギングが生じたりしてどうもうまくありませんでした。このため、今回は、後述する第2LOを自励方式にするということとの兼ね合いもあって、FCZコイルを4段重ねた-3dB帯域300kHz弱のLCフィルタ1種類で済ませています。帯域が広すぎるように感じられるかもしれませんが、これでも500MHzをフルに掃引すると、細い1本の線にしか表示されませんので、適当なところだと思います。

 (5) 第3LOユニット
 100.8MHzの水晶を使った2石の発振器で、出力は約12dBmあります。他のLOにも共通しますが、DBMをスイッチングするため、LOポートにいれた3dBパッドによる減衰も考慮して、出力は10dBm程度は必要です。
 水晶は秋葉原でよく見かける安い新品ジャンクです。やや半端な周波数ですが、特に重大な意味があるわけではありませんから、手に入りやすい100MHzちょうどでも大丈夫です。使用する水晶による周波数の多少の差は、第2LOの調整で吸収することができます。

 (6) 第2混合・IFユニット
 第3混合と同じDBMを使い、FCZ研究所の寺子屋シリーズのガリ・ヒ素プリアンプ(80MHz用)で増幅し、FCZコイル4段のBPFを通した上で、さらに2SK125×2のポストアンプで増幅しています。プリアンプはトランジスタを銅箔側に実装するように指示されていますが、筆者は他の部品もすべて銅箔側に付けた上で、両面テープで生基板上に貼りつけました。

 (7) 第2LOユニット
 第2LOは、以前Ham Journal誌でも紹介されたジャンクのUHFチューナを改造したものです。もともとは一時代前の米国かどこかの衛星TV受信用に製造されたものと推測されますが、最近の薄型のBSチューナユニット等よりも手を入れやすい構造です。受信周波数430〜930MHz、IF70MHz、LOはチューニング電圧0〜30Vで500〜1000MHzとなっており、そのままでもいろいろ活用できるのですが、筆者はその1オクターブ可変のVCOに感激し、今回のスペアナ製作を思い立ちました。
 改造方法を簡単に紹介します。まず部品面の蓋をとり、ピンを下向きにして見たときに、左上の小部屋がVCOです。次に、裏側の蓋をとり、電源電圧、チューニング電圧がピンからVCOまでどのようにつながっているかをよくよく確認します。部品面のジャンパー線だけでなく、チップ抵抗でパターンをジャンプしている所もありますので要注意です。その上で、VCOの動作に関係ない部品はすべて除去してしまいます。また、右上の二つの小部屋の間仕切りもハンダゴテとペンチで除去します。こうしてできた広大なスペースには、LOの増幅回路や3端子レギュレータを収めることができます。
 VCOの出力は、もともとミキサーダイオードが入っていたスリーブを使って、同じ形に加工した太めの錫メッキ線でピックアップし、増幅器に導きます。μPC1651で軽く一押ししたあと、3dBのパッドを経由してさらにμPC1677で増幅することで、15dBm程度の出力を得ています。また、組み込み後の調整用に周波数カウンタ接続ポートも設けています。
 このLOは固定周波数の自励発振器なので、78L08と多回転型VRでチューニング電圧を作っています。問題の安定度は、チューナユニット内に押し込んだ78M05の発熱のせいで電源投入からしばらくは数百kHzほど周波数が上がっていきますが、10分もすると、熱的に安定し、せいぜい数十kHzしか動きません。この周波数ドリフトは、管面表示上はまったく気にならない程度です。
 なお、このユニットはジャンクですので、入手困難な場合には、末尾に掲げた文献1、6等に掲載されているVCO回路例等を参考にされるか、今後も比較的安定的に入手可能と思われる国内UHF-TVチューナやBSチューナ等のユニットの活用にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 (8) 第1IF-BPFユニット
 低NFを重視し、スワロー誘電製の430MHz用ガリ・ヒ素FET(2SK571)プリアンプユニットで増幅したのち、二つのBPFユニットを通しています。4素子のBPFユニットは、前述のチューナのRFアンプ部分に付いていたLを流用したもので、同調容量は20pFのトリマとしています。この後に、筆者はさらにだめ押しで手持ちのスワロー製の430MHz用BPFユニットを追加しました。
 なお、これらのスワロー製のユニットは、基本的にトリマの調整だけで500MHzに対応できますが、BPFユニットについては特性がややブロードなので、段間の結合容量を0.5pFの2個直列に変更しています(ハンダ付けされたシールドケースのふたを開けるのは結構面倒なので、あまりお勧めできない改造ですが……)。

 (9) 第1混合ユニット
 入力信号が最初に通過するLPFは、500MHzをコーナーとして計算した定K型3段フィルタで、Lは1mmの錫メッキ線を精密ドライバの先に3回巻きしたもの(内径2.4mm)ですが、実際の性能・効果はよくわかりません。
 DBMについては、上述のTUF-2よりもワイドレンジのTUF-5(推奨使用周波数20〜1500MHz)を用いています。他の部分と違い、ここでは入力信号の下限がDCになりますので、RFポートとIFポートを入れ換えて使っています。
 また、入力アッテネータはぜひとも欲しいところですが、あとから追加するつもりで、ダミーのスイッチだけを付けてあります。

 (10) 第1LOユニット
 第2LOとほとんど同一です。

 総合評価

 スペアナとしての基本性能ですが、最終的にノイズフロアはおよそ-100dBmとなりました。これは最近はやりの広帯域ハンディレシーバとだいたい同じぐらいの感度を達成していると思われます。他方、入力信号を増加させていくと、-20dBmを超えたあたりから急激にスプリアスが増加しますので、一応計測可能なダイナミックレンジは-100〜-30dBmの約70dBと考えます。(100MHz入力において)。
 本機では、いくつか問題が残っています。
 第一に、入力信号と無関係に表示される内部スプリアスが、まだ若干存在します。これは入力感度が高いこととの兼ね合いもあり、また、慣れてしまえば目的信号なのか内部スプリアスなのかはある程度判断がつきますので、今回は目をつむることとしました。根本的に退治しようとすると、周波数関係やシールドの物理的構造なども含めて全部作り直すぐらいの労力が必要になるのかも知れません。
 第二に、第1IFと同一周波数の信号を入力した場合のIFフィードスルーと類似の問題だと思われますが、第1IFの整数分の一になる周波数の信号を入力した場合にも、全周波数帯域にわたってノイズフロア自体が大きく盛り上がったような表示になります。このため、例えば第1IFを500MHzちょうどにしておくと、100MHzの信号を入力した場合に非常に具合が悪いことになってしまいます。これについては、やや消極的な解決策ですが、第1IFを500/510MHzというように切り換えて回避することとしました。
 第三に、掃引速度や掃引幅を変化させた場合に生じる信号の振幅表示値の変化・誤差の処理の問題があります。すべてのポジションにおいてつねに較正された振幅の絶対値を表示してくれることが理想ですが、これまた多大な労力を要する作業と考え、あきらめました。とはいえ、掃引幅を狭めていくと、あるところから表示値がだいたい一定するようになりますので、これにより定量的な較正や測定も一応可能です。
 以上のような次第で、冒頭にも書きました通り、まだまだ測定器と呼ぶには気が引けるでき上がり具合ですが、この程度のものでもスペアナの雰囲気ぐらいは十分に味わえることと思います。蛇足ですが、本機の信号入力端とY軸出力端子にそれぞれアンテナとAFアンプを接続し、掃引幅0でメインダイヤルを回していくと、FM放送やTV音声、430MHz帯のアマチュア局の交信等を良好に受信できました(当然のことながらFMの復調はスロープ検波です)。これは結構楽しめます。
 なお、紙幅の都合でスペアナの基本的な動作原理や本機の調整方法等については十分に説明できませんでした。かわりに主な参考資料を掲げておきますのでご参照下さい。
 最後になりますが、本機の製作にあたっては、JE3OFU/1高野誠OMから様々なアドバイスをいただきました。この場をお借りして心から御礼申し上げます。

 参考資料

(1995年5月10日執筆、1997年2月1日一部修文)

 ※ この文章は、あるハンドブックに掲載するための原稿として執筆したものですが、諸般の事情で日の目をみることができませんでした。